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原我塾
議論先導者:原健一(金沢工業大学 基礎教育部 修学基礎教育課程講師)

原 健一(はら けんいち)

金沢工業大学 基礎教育部 修学基礎教育課程講師。北海道大学博士後期課程修了。博士(文学)。北海道大学科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)博士研究員、特任助教を経て、現職。専門は現代フランス哲学、特にベルクソンの知覚論、記憶論。

 

ひとはなぜ笑うのか?――ベルクソン『笑い』と道徳的価値

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昼休みのカフェで一息ついていた時のこと。ふとした瞬間に、横に座っている数人の高校生が自分を笑っていることに私は気づいた。高校生たちの視線や、時々漏れ聞こえる笑い声に、私は落ち着いていられず、トイレへと駆け込み、鏡で自分の姿を確認した。しかし、いくら仔細に眺めても、おかしなところは見つからない。結局あきらめてトイレから出た時には高校生はいなくなっていた。

 

この例を通じて指摘したいのは、実のところ、この時、私がシャツを裏表逆に着ていた、ということではない。そうではなく、ニヤニヤした表情を見て取るだけで、あるいは、クスクスという特殊な音を聞くだけで、自分自身の振る舞いを省みることを私が強いられたということである。どうやら、笑いには、身振りの反省を自動的、反射的なしかたでひとに促す力があるようなのだ。

 

そのような力の由来として笑いを位置づけた哲学者がベルクソンである。今回の我塾では、このベルクソンの笑い論を、ある種の道徳理論として紹介することから議論を始めたい。笑いにかんするベルクソンの分析は、差別や偏見をめぐる現代の道徳的問題を、笑うという具体的で日常的な行動を通してとらえ直すことを可能にする。これによって、私たちの日々を形づくる笑いの場を、道徳的価値をめぐる闘争の場として示すことを目指す。

 

そして、仮に笑いが価値の闘争の場であるならば、場の空気に合わせてただ笑い、その場を漫然と享受するのとは異なる特定の姿勢や態度を私たちは身につける必要があるのではないか。今回の我塾では、これらのことについて聴衆の方々と意見を交わすことで、笑いに向き合う私たちの姿勢や態度の問い直しを試みたい。

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